同業グルメ
言わずと知れた沖縄料理の名店

言わずと知れた沖縄料理の名店

ゆうなんぎい

その他
沖縄県那覇市

並んでも惜しくない、沖縄の家庭の味が本物だから

コンセプト商品ホスピタリティ空間価格勝てる気がしないスタッフ教育が気になる

有澤まりこ

株式会社サンラサー

東新宿サンラサーオーナーシェフ

有澤まりこ

ここを超える沖縄料理店をまだ知らない――「ゆうなんぎい」

カレー屋をやっていると、「負けた」と思う瞬間がある。技術の話ではなく、もっと根っこのところで。その店が何者で、何のためにそこにあるのか、という問いに対する答えが、料理や空間からにじみ出ているとき。沖縄・那覇にある沖縄料理店「ゆうなんぎい」は、そういう店だ。


予約はできない。並ぶしかない。

この店に予約制度はない。来た人が並ぶ。それだけだ。人気店の証明として語られることが多いが、自分にはそれ以上の意味に見えた。「来たい人が来る」という、ある種の覚悟のような姿勢である。こちらが店に合わせに行く。その関係性が、暖簾をくぐる前から成立している。

訪問したのは平日の18時過ぎ。それでも待ちが出ていた。


ねえねえたちの仕事

厨房に立つのは、沖縄出身の女性たち――「ねえねえ」と呼ばれるスタッフだ。彼女たちがもともと目指していたのは、気の置けない馴染みの沖縄料理を出す、小さな食堂だったという話を聞いたことがある。それがいつの間にか、沖縄料理といえばここ、と言われるような店になった。

ただ、その「いつの間にか」の部分に、厨房の仕事を見ていると納得がいく。手際に無駄がない。動線が短い。複数のオーダーをさばきながら、テーブルの様子を視野に入れている。あれは経験値だけで作られるものではなく、この場所で何年も繰り返してきた固有のリズムだ。

ホールスタッフの目配りも同水準にある。こちらが何かを求める素振りを見せる前に、必要なものが来る。過剰ではなく、ちょうどいい。サービスの密度として、かなり上位に入る体験だった。


ラフテーの話

メニューのなかで最も印象に残ったのは、やはりラフテーだ。

一般的に、ラフテーは醤油ベースの煮汁で仕上げる。甘辛く、色が濃く出る。ところがここのラフテーは味噌仕立てだ。しかも使うのは、首里で作られる特製の味噌である。

食べると、まず甘みの輪郭が違う。醤油の直線的な甘辛さではなく、味噌の発酵由来の複雑な甘みが、脂の多い豚バラを包み込むような仕上がりになっている。脂が重くない。いや、正確には重さはあるのだが、それが不快に残らない。味噌の酸と旨みが、後味を整理しているのだと思う。

火入れの時間は相当かかっているはずだ。箸を入れると抵抗がなく、繊維がほどける感覚がある。それでいて型崩れしていない。煮崩れる一歩手前の、ぎりぎりのところで止めてある。この判断は、タイマーでは管理できない。


フーチャンプルー、スルルー、いなむどぅち

フーチャンプルーは麩を使った炒め物だ。麩は水分を多く含む素材で、炒めるときに水が出やすい。べちゃっとなりがちなところを、ここのものは火の回し方がきれいで、麩に焼き色がついている。卵のまとわり方もちょうどよく、全体が一体感を持って仕上がっている。

スルルー(キビナゴ)は、小ぶりな魚の素揚げだ。骨ごと食べられる状態になっている。揚げ温度が高く、表面がカリッと仕上がりながら身が乾燥していない。火の入れ方として、短時間・高温のコントロールが効いている。

いなむどぅちは豚と野菜の味噌汁だ。白味噌ベースのやさしい椀で、先のラフテーとは対照的に、素材がそれぞれ主張せず溶け合っている。塩分が低く、最後まで飽きない。汁物として、食事全体を落ち着かせる役割を担っている。


料理の背景にあるもの

オーナーの接客は、人懐っこいという言葉がそのまま当てはまる。押し付けがましくなく、でも距離が開いていない。常連も初見もフラットに迎える空気があり、それが店全体のトーンを作っている。

これは演出ではなく、性質だと思う。

ゆうなんぎいの料理が持っている強さは、技術の高さと、その技術が誰かに見せるためではなく、ただ食べる人に届けるためだけに使われているところにある。首里の味噌を選び、ラフテーを味噌で煮て、それを出し続けている。その一連に、理由が一本通っている。

カレーという文脈で仕事をしていると、スパイスの組み合わせや火入れの順番など、技術的な積み上げに意識が向きやすい。ただ、この店で食べていると、技術はあくまで手段だということを改めて突きつけられる感覚がある。

何をなぜ作るのか。その答えが明確な料理は、食べた側に届く密度が違う。それがここで感じたことだ。 何十年も愛される店であるとは、そういう事なのだと強く思う店だ。

店舗情報

ゆうなんぎい

その他

沖縄県那覇市〒900-0015 沖縄県那覇市久茂地3丁目3−3

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