同業グルメ
アホかというくらい痺れる麻 (マー) の魅力

アホかというくらい痺れる麻 (マー) の魅力

本場四川料理 龍門 目黒本店

中華料理
東京都品川区

本格を貫く勇気が、駅前の片隅で輝いている

コンセプト商品ホスピタリティ空間価格とにかくおいしい勉強になる

中村仁

株式会社グレイス

西麻布 豚組オーナー

中村仁

目黒駅前に「本場四川料理 龍門」という店がある。トレタのオフィスが目黒に合った頃から、僕は何度も訪れている。トレタ初期メンバーのソウルフードと言ってもいいだろう。中毒性がある、とはよく言うが、この店に関してはその言葉が珍しく実態に合っている。


そもそも、駅前にある、ということの意味をこの店は無視している。

駅近の立地は集客に有利である一方、客層が広くなるぶん「万人向け」に寄っていく圧力がかかる。辛さを抑える、食べやすくする、見た目をわかりやすくする。そういった方向への調整が、日本全国の駅前飲食店で静かに、しかし確実に行われてきた。

龍門はその調整をしていない。少なくとも、料理を食べた限りそう判断できる。山椒の効きが強烈で、口の中がしびれる。痺れと辛味、いわゆるマーとラーが正面からぶつかってくる。ラーよりもマー、つまり痺れの成分が特に強く、食べ進めるにつれて舌の感覚が変化していく。日本向けに丸めた四川料理ではなく、四川料理が本場そのままのスペックで提供されている。


麻婆豆腐と担々麺を食べた。ランチでは両方がセットになったメニューもある。

麻婆豆腐

麻婆豆腐は、豆腐の状態と火入れが安定している。崩れすぎず、かといって固くもなく、ソースとの絡みが均一だ。(といっても、実際はマーとラーの強さにやられて、そんな事を気にする余裕は全くない)辛味と痺れのバランスは明確にマー寄りで、食後もしばらく口の中に余韻が続く。なんなら、食べ終わったしばらく後でも、お水に味を感じるぐらいには痺れが続く。担々麺もゴマが濃厚で、これで物足りないという人はいないだろう。単体でも成立するが、麻婆豆腐のあとに食べると、辛味の方向性が少し変わって面白い。セットで頼む意味は十分にある。


少し引いた目で考える。

中華料理というジャンルは、この数十年、業態としてのアップデートがあまり進んでいないと僕は思っている。大きな円卓、分厚いメニュー、大皿で提供される料理をテーブルで取り分けるスタイル。このフォーマットは、僕が子どもの頃から本質的に変わっていない。

もちろんそれ自体が悪いわけではない。ただ、他の飲食ジャンルでは業態の細分化や提供スタイルの更新が繰り返されてきた中で、中華料理のスタンダードはほとんど動いていない。結果として、外食市場における中華料理の存在感はどんどん下がっているのではないだろうか。

龍門が強いのは、そのフォーマットの中に留まりながらも、料理そのものの個性で圧倒的に差別化しているからだと思う。スタイルを変えるのではなく、中身を突き抜けさせる。これはリスクを抑えながら個性を際立たせる差別化戦略としてなかなか優れている。

龍門のように「これだけ辛い、これだけ痺れる、それでも食べに来る人が来る」という状態は強い。辛さという要素は、好む人にとっては強力なフックになる。痺れを求めて店に来る、知り合いを連れてきてびっくりさせたい、などの動機は明確で強い。「めっちゃ辛い麻婆豆腐があるんだけど行かない?」という誘い文句を断れる人は少ないのではないか。そういう意味ではクチコミにも乗りやすい。

意図しているかはわからないが、中毒性やクチコミ適性という点では、龍門はとても上手くできている。これは素直にそう思う。


マーが好きな人にはまず行ってほしい店だ。ラーだけを求めている人には少し強いかもしれないが、痺れを受け入れられるならその強度は本物だ。目黒駅から近く、ランチでもディナーでも使いやすい。

観光地化していない、商業化もされていない。駅前にそういう店があるのは、地味に貴重なことだと思っている。

店舗情報

本場四川料理 龍門 目黒本店

中華料理

東京都品川区〒141-0021 東京都品川区上大崎2丁目27−3 B1

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